『新座頭市物語 折れた杖』 勝新太郎監督   ☆☆☆

所有する座頭市ブルーレイ・ボックスから残り少ない未見作品を鑑賞。シリーズ24作目の「折れた杖」だが、これはシリーズ中初めての勝新太郎監督作品である。やはり監督をやらせても型破りなのか、出来の良し悪しは別にして、かなり特色ある一篇だ。やたら映像に凝っていて、クローズアップやひねった構図の絵が多く、色調も独特。映像美というわけでもなく妙に前衛がかっていて、アングラ時代劇みたいだ。ストーリーも暗く、残酷な展開なので全体に陰惨な印象を与える。

ストーリーは大体こんな感じである。旅の途中の吊り橋で、これから娘を身請けしにいくという三味線弾きの老女と出会った市、おひねりをあげようとすると老女は足を滑らせ、吊り橋から落ちて死んでしまう。市は形見の三味線をかついで宿場町に行き、賭場で荒稼ぎして娘・錦木(太地喜和子)を身請けする。錦木の恋人のチンピラ・丑(うし)(中村賀津雄)は面白くない。

一方、賭場を荒らされたヤクザの万五郎一家は漁師たちの船を焼き、子供まで殺すという非道ぶりを発揮。弟を殺され、悪徳商人に手籠めにされた少女(吉沢京子)は自殺してしまう。更に万五郎(小池朝雄)は市を斬ろうとするが返り討ちにあったため、錦木と丑に姦計を授けて市を殺そうとする。が、またしても返り討ちにあい、次は錦木を人質にして市の仕込みを取り上げる。更に、丑に命じて市の両手を銛で潰してしまう。両手を潰された市は、最後の万五郎一家の襲撃に備えて、仕込みを血まみれの両手に縛り付けるのだった…。

と、このストーリーからも分かる通り、いつも以上に救いのない無残な話である。いたいけな子供は殺されるし、可憐な少女の吉沢京子は自殺してしまう。そしてなんといっても、市が仕込みを奪われの両手を銛で潰されてしまう。刀傷を負うどころではない、台の上に置いた両手を銛で突かれて、潰されてしまうのである。これじゃもう二度と仕込みは使えないんじゃないかと思うぐらいの重症だ。いくらなんでも、あそこまでやられるがままになってしまうのはまずいだろう。あの場で両手を斬り落とされていたかも知れないし、殺されていても不思議はない。というか、あの状況で市をいったん解放してしまう万五郎一家はバカじゃないだろうか。

というような陰惨さに加え、爽やかな人物がいないのも全体の気が滅入るムードに拍車をかける。ヒロインの錦木も、過去の座頭市シリーズのヒロインに比べると可憐さがまったくないすれた女だし、その恋人の丑も卑屈なチンピラである。可憐なヒロインという意味では吉沢京子がその役割なのだろうが、一度も明るい顔を見せることなく自殺してしまう。その一方で、擦れているだけでなく鼻をほじったりもする、ちょいブス可愛い錦木の造形は型破りで面白いという見方もできる。あとこれまでの座頭市シリーズにはなかったと思うが、市と錦木のセックスシーンまである。着衣なので何も見えないが。まあ、かなりアクが強い作品であることは間違いない。

映像の凝り具合もそうだが、自分の代表作である座頭市映画を初めて監督するということで勝新太郎監督もそうとう力が入っていたんじゃないだろうか。タイトルも「新座頭市物語」と、名作の誉れ高い第一作を意識したものになっているし、市が賭場に行って壺を振らせろと言い、わざとサイコロをこぼして皆に見えている目に賭けさせ、場に出ている金を総ざらえしてしまうのも第一作目と同じだ。

市の殺陣はもちろんいつも通りで、お約束の用心棒も出て来る。今回は雷雨の中での立ち回りで凄愴な雰囲気はあるものの、肝心の用心棒が役者も殺陣もイマイチで印象に残らない。また、個人的に座頭市シリーズのみどころである市の居合の凄さを見せつける演出(壺の中のサイコロを斬るとか蝋燭を斬るとか)がないのが残念。クライマックスの、血まみれの手に仕込みを縛り付けての大立ち回りも痛々しくて、爽快感はまったくない。性悪だった万五郎親分の死にざまがやたらとブザマなぐらいである。

それに加えて、プロットも甘い。吉沢京子を弄んだ悪徳商人の青山良彦が途中から登場しなくなり、何の報いも受けていない。もっともかわいそうな被害者である吉沢京子と市に絡みがないのも物足りない。

総合すると、勝新太郎監督の趣味と思い入れが全開となり、細かいところは粗いが凄愴で無残なムードが色濃く漂う、トラウマを誘発するような実験的作品になっている。全体としては上出来とは言い難く、私はあまり好みじゃないが、この独特の雰囲気が大好きという人もいるようだ。観る人を選ぶ一篇だと思う。

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