『蛇精の淫』 曲谷守平監督   ☆☆☆

1960年公開の古いモノクロ映画で、上映時間は78分とかなり短い。監督にも作品にもまったく予備知識がなく、ただ蛇に憑かれた女と若者の恋物語という設定に惹かれて、ついDVDをアマゾンでオーダーしてしまった。要するに『雨月物語』の中の若狭姫エピソード系、または『牡丹燈籠』系の物語で、人間の男が人間にあらざる魔性のものに誘惑されて命を危うくするパターンだ。はっきり言って、私はこういう話に弱い。無性に惹かれてしまうのだが、これは自分もそんな経験をして死の世界へ誘われてみたいという無意識の願望のなせるわざだろうか。

それとこの映画の場合、魔性のものとは蛇である。私の世代で蛇の呪いといえばこれはもう、楳図かずおしかない。蛇女の怖さは楳図かずおの数々の恐怖マンガによって脊髄反射レベルにまで叩き込まれている。面白いのは、だからもうこりごりとはならず、子供の頃さんざん怖い思いをしたがゆえに今でもなぜか惹かれてしまう、という不思議な現象があることだ。スティーヴン・キングの言う通り、甘美な恐怖は病みつきになるのである。

さて、そんなわけで「牡丹燈籠」系の怪談+蛇という設定に惹かれて買った『蛇精の淫』、結果的にはまあまあだった。傑作とはいわないが、そう悪くはない。「佳作」ぐらい言ってもいいと思う。特に時代を考えると、この超自然的題材でそこまで安っぽい映像が出てこないのが好ましい。昔の怪談映画というと大体おもちゃっぽいバケモノ・メイクが出て来るものだが、本作にはそれがない。というか、この映画は怪談やホラーというよりエロス路線のようだ。

もちろん昔の映画なので裸や露骨なセックスシーンなどは出てこないが、基本的に性的な暗示と仄めかしに満ち満ちている。序盤の、山の中で青年が庄屋の娘を助けるシーンからして、失神している娘の胸のあたりがはだけ太腿も露出しドキッとさせるし、娘が休んでいる寝床に蛇が潜り込んでいった後娘がうめき声をあげるシーンなど、あからさまな性的暗示がある。娘が青年に抱きついて下半身から上半身へ陶然となった表情で愛撫していくシーンなども、かなりエロティックだ。閉じ込められた娘が悪徳医師にレイプされるシーンまである。

そして、これらのエロス要素を一身に引き受けている主演女優、小畠絹子氏がかなり良い。今の目で見ても美人で、おとなっぽさと可愛らしさがあり、濃厚なフェロモンを感じさせる。ちょっと深田恭子みたいだ。

そして本作にはヒロインの蛇姫を演じる小畠絹子以外にも、蛇姫の侍女に三田泰子、青年の幼馴染のいいなずけに松原由美子と、それぞれ異なる雰囲気の女優さん達が出て来る。三田泰子は日本的な淑やかさを感じさせる美人で、松原由美子はきりっとした健康的な娘だ。役柄もみんな印象的だし、全体の淫靡な雰囲気に加えてこれだけ贅沢な女優の使い方をしてあるのは、本作の大きな見どころだと思う。主演の小畠絹子も怪しい蛇姫・桜子と、蛇に取り憑かれる清純な箱入り娘・お絹の二役を演じ分けていて、その落差が面白い。

ストーリーは前述の通り「牡丹燈籠」系で、青年が蛇女に見込まれて一度は母親の助けで逃げ出すが、諦めきれない蛇女はお絹に乗り移って青年と夫婦になり、再び結ばれようとする。青年は恐怖しつつも蛇女=お絹に惹かれ、やがて母親や幼馴染の制止を振り切ってお絹と逃避行するが、村にやってきた旅の僧が蛇の呪いを解くために祈祷を始める…という物語。

しかしこの物語の中には怪談要素とエロス要素以外にも色々と物議を醸しそうな点があって、それはたとえば主人公の青年が被差別部落出身であるという階級問題だったり、お絹が政略結婚させられそうになる県会議員の息子が白痴的だったり、その息子が蛇を殺してお絹にプレゼントしようとする動物虐待問題だったりする。今じゃ絶対にできない設定、撮れない絵ばかりだろう。これらは昔の映画ならではのヤバさというかおおらかさで、それがまた本作の怪しさのスパイスとなっている。ちなみにこの映画の中に出て来る大量の蛇は大部分本物のように見えるが、あれはやっぱり本物の蛇を集めたのだろうか。もちろん作り物のおもちゃの蛇など使われたら観客は白けてしまうが、役者さんは大変だっただろう。

さて、そんな風に色々な面白みがある本作ではあるが、全体の出来としてはやはり『牡丹燈籠』には及ばないし、名作『雨月物語』と比較できるレベルではない。前半、青年とお絹の婚礼あたりまではなかなかいいと思うのだが、後半混乱してくる。ストーリーがごちゃごちゃして間延びしてしまうし、細かい部分の安直さも目につき始める。そもそも、意志と信念が一貫している女たちに比べ青年の行動がフラフラしているので、感情移入が妨げられる。幼馴染に「もうお前から離れない」と告げたそばから桜子に呼ばれて「行かせてくれ」と言い出したりする。だから、蛇女含めて女たちが妙にかわいそうになってくる。

二人の逃避行の後、僧の祈祷で蛇女が追い詰められるクライマックスも盛り上がりに欠ける。広いスタジオみたいなところで撮っているのだが、セットと演出がしょぼいために安っぽくなってしまっている。これだったらみんなを一同に集めたりせず、祈祷している僧、苦しむ蛇女を別々に撮って、編集でつなげるだけの方が良かったんじゃないかと思う。スペクタクル的演出にしようとして、かえって失敗しているような気がする。

まあそんなわけで、多少イロモノ的なところも感じさせる本作だが、独特の淫靡な雰囲気は悪くない。女優さんたちも魅力的だし、珍重するマニアがいるのも理解できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。