『快盗ルビイ』 和田誠監督   ☆☆★

日本版DVDをアマゾンで取り寄せて鑑賞。この映画は大昔公開時に映画館で観たし、その後ビデオでも一回ぐらい観たはずだがすっかり内容を忘れていた。小泉今日子と真田広之が他愛もない「犯罪」を繰り返すストーリーなのは覚えているが、具体的にどんなエピソードがあったか思い出せない。

唯一覚えていたのは、真田広之が高価なキャビアの瓶詰を間違って買ってしまい、それを食べて美味さにびっくりするシーンだけ。キャビアを白いごはんにかけて食うのだが、これが実においしそうなのだ。まだキャビアってどんな味か知らない時だったので想像を掻き立てられ、記憶に残っていた。

まあそれは余談だが、そんなわけで今回また新鮮な気持ちで観ることができた。そしてははあ、確かにこんな映画だったなあと思い出したわけだが、記憶に残らなかった理由も分かった。ストーリーがあまりに他愛ないのである。一年もたてば今回観た内容も忘れてしまうだろう。

リアリズムとは無縁の、人工的な、軽くて洒脱なコメディ。途中で突然ミュージカルになったり、本編終了後のエンドクレジットで出演者カーテンコールの趣向があったりする。キャストは大変豪華で、主演の小泉今日子、真田広之に加え、陣内孝則、吉田日出子、名古屋章、岡田真澄、木の実ナナ、水野久美など当時のビッグな人たちが大勢出ている。和田監督の人脈だろう。それに若い頃の小泉今日子がシーンごとに色んな違うファッションを披露するので、彼女のコスプレ劇としても愉しめる。

おそらく今でいえば、三谷幸喜や中村義洋監督(伊坂幸太郎原作もの)に近い路線だと思う。洒脱で、軽くて、日常的リアリズムとは無縁で、サービス精神が旺盛。エピソードも豊富で、二人が実行する「犯罪」はカバンすり替え、銀行強盗、宝石詐欺、豪華アパートの空き巣、手紙取り返し、と五つも出て来る。それぞれ違う趣向だし、舞台となる場所も変化して観るものを飽きさせない。

にもかかわらず、なんとも印象が薄い。ほのぼのしてて微笑ましいけれども、映画としてはスカスカと言っていい。よくも悪くもアクが強い三谷幸喜や中村義洋の映画に比べると、はなはだしくインパクトに欠ける。一体なぜだろうか。

ひとつはやはり、エピソードの他愛なさ。どれもこれもごっこ遊びのようなノリなのでスリルも緊張感もなく、反面笑っちゃうほどのバカバカしさもない。中途半端にまともで、意外性がない。宝石詐欺のエピソードにしても、そんなことじゃ絶対うまくいかないよなと思っていると、その通りにうまくいかない。三谷幸喜や中村義洋だったら多少バカバカしくても何かしら「ああ、そういうことか!」と思わせる機知やシャレを盛り込んでくるし、またそれが作品のチャームポイントになるのだが、この映画はほとんどそういう機知のひらめきを感じさせない。

フォローアップも甘い。たとえば豪華マンションの空き巣事件のあと、あのキャラが濃い夫婦(岡田真澄と木の実ナナ)のリアクションはどうだったのかなどちょっと気になる部分、エピソードのオチにできるような部分を、この映画は拾わない。

コメディとしての欠点はもちろん、笑えるギャグが少ない。確かに、微笑ましいギャグはある。真田広之のダメサラリーマンが小泉今日子の水着写真を盗んだり、断り切れなくて何度も犯罪の片棒を担がされたり、自転車に乗れなくて練習したりするのはおかしい。おかしいが、どれも微笑みを誘う程度で、起爆力に欠ける。おとなしくて捻りに欠けるのである。

それから、映画全体を通してぐっと締まるところがない。締まるというのは緊張するとか目立ってシリアスになるとか、要するにストーリーテリング上のトーンの変化である。たとえコメディであってもそういう緩急をつけることで話が盛り上がるものだが、この映画はずっと微笑ましいほのぼのムードのままだ。小泉今日子と真田広之が激しく衝突するとか、破綻しそうになることはないし、二人に深刻な危機が訪れることもない。喧嘩するシーンすらない。

ロマンティック・コメディとして見ても、二人のお互いに対する感情の変化や、うねりのようなものが見えてこない。最後にようやく小泉今日子が真田広之の気持ちに気づく、というだけ。取り立てて切ないシーンもない。要するに、色んな意味で平坦であり、薄味だ。

前作『麻雀放浪記』であれほど濃厚な、激しい感情の揺れを盛り込んだフィルムを撮った和田監督が、一体どうしてしまったんだろうと首をかしげるほどの薄味ぶりである。パーツパーツはお洒落だし、ほのぼのムードには好感が持てるし、ミュージカルシーンなど映画ファンらしい趣向にも事欠かないが、肝心のストーリーと脚本の弱さが露呈した形だ。もしかすると、原作小説との和田誠監督の相性もあるのかも知れない。あるいは、この薄さも含めて原作の持ち味なのか。

こじんまりとしたかわいらしいフィルムではあるものの、お行儀が良過ぎてメリハリと精彩に欠けてしまった。まあこれは「おしゃれ」が前提の映画らしい(小泉今日子談)ので、キョンキョンのおしゃれっぷりを楽しめればそれでいいのかも知れない。

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