『レモン畑の吸血鬼』 カレン・ラッセル   ☆☆☆★

アメリカの作家カレン・ラッセルの短篇集。タイトルからもお分かりの通り遊び心があるポップでシュールな短篇が多く、たとえば表題作は年老いた吸血鬼夫婦の話だし、糸を吐くクリーチャーに変えられた製糸工場の女工たちや、馬になった歴代大統領たちを題材にした短篇などもある。ちなみに萩尾望都氏が帯に推薦文を寄せているのは、やっぱり『ポーの一族』の吸血鬼つながりなんだろうか。

ポップでシュールな短篇作家というと、私の場合エトガル・ケレットやエイミー・ベンダー、ジュディ・バドニッツ、ミランダ・ジュライなどの名前が浮かんでくるが、カレン・ラッセルはそういうアンリアリズム系の匂いを漂わせつつ、もうちょっとSFに近い感触がある。つまり、奇想をぽんと放り出して終わりではなく、ある設定を踏まえて細部を作り込み、登場人物の心理や過去の経緯を書き込んでストーリーを肉付けし、リアリティを持たせていく。だからどの短篇も比較的長くて、ちゃんとストーリーの展開がある。

文体そのものはかなりトリッキーで、仄めかし、逸脱、省略、飛躍が多く、何を言っているのか意味を掴むために二度読みした部分も多かった。そういう意味で、とても感覚的な文章を書く作家さんである。平明ではないし、質実剛健でもない。シャンパンの泡みたいに跳ね回る文章だ。しかしストーリーテリングという意味では、先に上げたケレットやバドニッツのように感覚で飛躍していくタイプではなく、むしろスティーヴン・キングみたいな正攻法タイプだ。つまりディテールを書き込んで空間を埋め尽くし、その密度で物語に説得力を持たせるやり方。まあ、キングほど饒舌ではないけれども。

作品の雰囲気というかムードはかなり幅広い。グロテスクな味があるのも特徴で、「お国のための糸繰り」「証明」「エリック・ミューティスの墓なし人形」あたりではホラー風の味付けがなされている。物語の中に不気味な存在があり、ストーリーは不吉な予感をはらむ。ちなみに「お国のための糸繰り」は昔の日本が舞台で、製糸工場で働く女工たちが題材になっている。彼女たちはこの工場の中で糸を吐く蚕のような生き物に変化していくのである。結末も不気味だ。

その一方できわめて遊戯的な、まるでパーティージョークみたいなアイデアの短篇もある。たとえば馬になったアメリカ合衆国の歴代大統領たちがいる厩舎、というアイデアの「任期終わりの厩」や、「ダグバート・シャックルトンの南極観戦注意事項」などである。どう考えてもふざけている。こういうのはちょっとドナルド・バーセルミやリチャード・ブローティガンの短篇の匂いがする。

そんなわけで作風はとても幅広いが、本書を読み通した読者はおそらく子供視点の、あるいはティーンエイジャー視点の物語が多いことに気づくだろう。私はカレン・ラッセルの作品集はまだこれしか読んでないので、もしかすると見当はずれかも知れないが、子供視点の物語が多いことも彼女の作品世界の特徴なんじゃないかと思う。もともと跳ね回るようなポップで奇抜な文体なので、語り手がおとなや年寄りよりも子供の方がマッチして、作者の個性が活きるようだ。

完全に私の趣味で言わせてもらえば、エトガル・ケレットやエイミー・ベンダーのように論理を超えて飛躍または逸脱していく短篇の方が好みなのだが、奇想だけじゃなくストーリーがある方が読みごたえがあっていい、という読者にはおススメである。

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