『座頭市喧嘩太鼓』 三隅研次監督  ☆☆

所有する座頭市ブルーレイ・ボックスの中から、久しぶりにまだ観ていない作品を鑑賞した。未見の作品はあと一、二本残っている程度。座頭市シリーズは大好きなので、時々このボックスを引っ張り出して観ているが、どうしても出来が良い一部の傑作ばかり繰り返し見てしまう。まあ、別にそれでもいいわけだが。

ちなみに、私が好きで繰り返し見る座頭市シリーズ作品は大体『座頭市物語』『座頭市地獄旅』『座頭市血笑旅』『座頭市鉄火旅』『座頭市の歌が聞える』で、この五作は間違いなく傑作だ。そこまで傑作じゃないかも知れないが『座頭市果し状』『座頭市関所破り』『座頭市喧嘩旅』あたりも、わりと好きである。

さて、これまで見逃していたこの『喧嘩太鼓』だが、案の定というかやっぱりというか、あまり良い出来ではなかった。シリーズ中でも明らかに下の部類だ。これから座頭市映画を観てみようという人は、これから観てはいけない。私のように、他はもう大体観終わったという人が見る作品である。

ストーリーを大まかに説明すると、ある親分一家の世話になっていた市は、親分に頼まれ、金を返さない若い博打打ちを斬る。するとちょうどそこに帰ってきた博打打ちの姉・お袖(三田佳子)が「せっかくお金を作ってきたのに!」と泣く。ヤクザがお袖まで捕まえようとしたので、市はヤクザを斬ってお袖を逃がす。弟をなくしたお袖は故郷の諏訪へ向かい、ヤクザはそれを追う。実はヤクザは最初からお袖を捕まえて、豪商(西村晃)の妾に差し出すつもりだったのだ。市もお袖を助けるため、それを追う。

途中で凄腕の素浪人(佐藤允)が現れて、いきなりお袖を通せんぼしてレイプしようとするが失敗。ついでに仕込みの腕を見て市を斬りたくなり、これも二人を追う。故郷についたお袖は叔母(ミヤコ蝶々)が止めるのも聞かず、女郎屋に奉公に出る。実は弟の借金を返すために身売りしていたのだ。それを知った市は女郎屋に乗り込んでお袖を逃がし、ヤクザのアジトに乗り込んで金を奪い、それでもってお袖の身請け金とし、彼女を解放する。ついでに、待ち構えていた素浪人を斬る。泣いてすがるお袖をふりきって、市はまた旅に出る。

何がダメかというと、脚本がおざなりで話の展開が安直に過ぎる。たとえばヒロインのお袖(三田佳子)は市を振り切って女郎屋に行っておきながら、市が助けに来ると一緒に逃げるし、市を斬ることに執念を燃やす素浪人(佐藤允)はお袖と市の行く先々に都合よく居合わせ、居合わせるわりには何もしないし、市はお袖の叔母(ミヤコ蝶々)の家にいきなり現れるし(住所を知っていたのか?)、それまで市の姿を見ると逃げ出していたヤクザ連中が女郎屋ではなぜか市に襲いかかるし、といった具合だ。

要するに、登場人物の行動原理がいい加減。ストーリー展開の都合だけで、安易に動かされているのがミエミエである。

それからヒロインの三田佳子は若くてキレイだが、演技がまるで「新宿コマ劇場歌謡ショー」みたいなのが気になる。表情から何から、なんだか型をなぞっているようでさっぱり真実味がない。最後に「市つぁん」と泣いてすがる意味も分からない。市を好きになっていたということだろうか? 最初は恨んで殺そうとまでした市を好きになったのなら、その心理の変化を多少は描いて欲しい。色々助けられたからいつの間にか好きになっていました、では釈然としない。そういうところがいちいち雑である。

市の殺陣はまあ、いつも通り冴えている。が、これぞ座頭市、というメチャかっこいい見せ場がない。たとえば、ここぞというところで仕込みを一閃させとっくりを二つにしてみせるとか、悪人を階段の取っ手もろとも斬り落とすとか、壺の中のサイコロを二つにするとか。その他ろうそくやお猪口などなんでもいいのだが、要は傑作と言われる他の座頭市映画には例外なくある、ヤクザが一瞬にして青ざめ、観客が「いよっ、座頭市!」と声をかけたくなるような、しびれるような居合いを見せつけるシーンが本作にはないのである。少なくとも、個人的には見当たらなかった。

その代わりと言ってはなんだが、博打でイカサマやった市が簀巻きにされて川に放り込まれそうになる場面で、市が簀巻きのままピョコンと立ち上がる、というコントみたいなギャグがあって、あれにはちょっとびっくりした。あんなコントみたいなギャグは座頭市シリーズでは珍しいと思う。

その他特筆すべきところは、別にない。西村晃、藤岡琢也、ミヤコ蝶々などいい役者が結構出ているのに、なんとももったいないことである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。