『禁じられた恋の島』 ダミアーノ・ダミアーニ監督   ☆☆☆★

所有している日本版DVDで再見。これは数年前に日本に帰った時にDVD屋さんで発見し、「おお、こんなものが出ている!」と感動して買ってきたタイトルである。

前のブログで一度書いたけれども、モランテ女史の原作小説『禁じられた恋の島』は私の実家にあるものすごく古い世界文学全集の一冊として本棚に並んでいて、それを中学生か高校生の頃に手に取ったのが初体験だった。なんだか扇情的な邦題にはそぐわない、イタリアの島を舞台にしたしっとりした文学作品で、作者のモランテは世界的な作家アルベルト・モラヴィアの奥さんでもある。

私が子供の頃に読んだ本には白黒のスチール写真がいくつか、このDVDのジャケット写真にも使われているヌンツィアタがベッドに横たわってアルトゥーロを見上げている写真や、アルトゥーロ少年が島の磯場を走っている写真や、遠くに見える島の監獄の写真などが付いていた。

もちろんビデオデッキもない当時はこんなマイナーで古いイタリア映画を観る手段などなく、原作の世界に魅せられた子供時分の私はこれらのスチール写真を飽きずに眺め、エチゾチックで哀愁を帯びた物語の世界に想像をめぐらしたものである。もちろん、この映画をこの目で観ることは一生ないだろうと思っていた。それが、なんと今の時代になって観ることができる。なんとも感慨深い。

ちなみに、この原作小説は今では池澤夏樹の世界文学全集に『アルトゥーロの島』のタイトルで収録されているので、絶版本の『禁じられた恋の島』を古本屋で探し回る必要はない。素晴らしい小説なので、ぜひご一読下さい。

さて、そういう思い入れとともに観たイタリア映画『禁じられた恋の島』。1963年公開、もちろんモノクロ映画である。ストーリーは原作にきわめて忠実で、映画ならではのアレンジはほとんどない。

あるイタリアの島、「男の館」と呼ばれる古い館でアルトゥーロは父ヴィルヘルムと二人きりで暮らしている。といっても、父はいつも旅行していて不在がちなため、アルトウーロは孤独だ。彼はいつも父の帰りを待っている。たまに帰って来るヴィルヘルムは気まぐれな暴君のように振る舞うエゴイスティックな男だが、そんな父をアルトウーロは神のようにあがめている。

ある日、ヴィルヘルムが予告もなく若い花嫁を連れて旅行から帰って来る。彼女の名はヌンツィアタ。まだ少女といっていい年齢の、素朴な信仰を持つ無邪気な娘である。アルトゥーロは「男の館」に突然闖入してきた娘に戸惑う。誰に対しても横暴に振る舞うヴィルヘルムと同じように、アルトゥーロもまた、自分では気づかない嫉妬の感情からヌンツィアタに冷たく当たる。

やがてヴィルヘルムは新婚の妻を置き去りにして旅に出る。父の不在の間アルトゥーロとヌンツィアタは次第に打ち解けていくが、ヌンツィアタが出産し、赤ん坊に夢中になったため再び二人の間に距離ができる。アルトゥーロはわざと薬を飲み、病気になって彼女に看病してもらう。お互いへの愛情に気づいた二人はキスをするが、それをきっかけにまたギクシャクしてしまう。

再び前触れもなくヴィルヘルムが帰って来るが、彼は島の監獄に移送されてきた囚人の一人である、若くてハンサムな男に執着していた。彼は男色者だったのである。脱獄してきた青年に「おどけ者」と呼ばれ、侮辱される父の姿にショックを受けたアルトゥーロは、ヌンツィアタとも別れ、ひとり島を出ていく。

原作同様、濃密な神話性を感じさせる世界観であり、舞台設定だ。周囲を海に囲まれた小島にある「男の館」。アマルフィ人の亡霊が出るとの噂が囁かれているこの古い館で暮らす少年と、暴君のような父親。父は少年を顧みないが、少年は父を熱烈に崇拝している。この野蛮で原始的な男性原理の世界に、素朴なキリスト教的信仰を持つ娘がやってくる。

少年と娘の世界観は激しくぶつかり合い、やがて少年は若い義母への思慕と、父親とともに世界を見たいという焦燥に引き裂かれる。これらすべての営みや葛藤に、島にそびえる監獄が罪と罰の影を投げかける。

父への崇拝と幻滅。母への禁じられた思慕。広い世界を見たいという焦燥。これらはすべて、一人の少年の成長過程において普遍的かつ絶対的に重要なテーマばかりである。映画はこれらのテーマを、丁寧に、原作にぴったり寄り添うようにして拾っていく。陰影に満ちたモノクロの映像は、言うまでもなくこの世界観にマッチしている。

哀愁溢れるギターのテーマ曲はいかにも昔の映画音楽といった趣で、ノスタルジックな雰囲気は十分だけれども、ちょっと感傷的過ぎて個人的には微妙だ。有名な曲らしいが、必要以上に映画が古びて感じられる。それから、このストーリーを映画で観るとやっぱり結末が弱い。アルトゥーロの精緻な心理描写で読ませる原作小説ではそう感じないが、映像だけで見せる映画だと、アルトゥーロの出奔が今一つしっくり来ない。唐突感があり、特にあの流れでヌンツィアタを残していくのが不自然だ。

予備知識がない人がこの映画を観ると、イタリアを舞台にした古びたメロドラマだな、と思う程度かも知れない。確かに古いし、地味である。が、原作は文句なく傑作であり、その原作の荘厳なまでの神話的美しさを知って観ると、原作に忠実なこの映画もなかなかオツなものだ。

それに、私にしてみればなんといってもなつかしい。原作を読んだ自分の子供時代とアルトゥーロ少年の成長過程がダブって感じられ、なんとも甘酸っぱい気分になるのである。

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